ムンバイマラソン出走記<中>

 15日午前3時、目が覚めました。午前2時に起きるはずだったのに…。慌てて準備をします。豆餅3個を小さく切ってポットのお湯に15分ぐらい浸し、余りに余っている「お茶漬けのもと」をふりかけていただきました。体中にワセリンを塗り、足にテーピングして…と結構、時間がかかります。午前4時過ぎにホテルを出ました。スタート地点のCST駅を指定してUberで呼んだタクシーは30分足らずでかっとばしてくれました。「これ以上行けない」と降ろされたのですが、さて、ココはどこ、です。駅の近くなんだろうけれど、どっちに行けばいいんだろう。ランナーの群れに紛れれば大丈夫だろうと思いきや、いたのはほんの数人で、しかもみんな同じ様子です。立っている警備兵に訊きました。「ID(カード)を出せ」。なんじゃそりゃー。走るのに持って来ている訳ないでしょう。おまけに「あっち」と指差した方向は結局、まるで別のところでした。
 さまようこと30分、ようやく会場へ入れました。えーと、荷物を預けなきゃ。バゲージカウンターはゼッケン番号ごとに預けるブースが仕切られていました。あれ、でも3000番台までしかブースがありません。私、1万台なんですけれど…。どこか別のところにブースがあるのかとキョロキョロしましたがなさそうです。看板に3000番まで書いてしまってからブースが足らないのに気づいたか、申し込みが多過ぎて足らなくなったか…って、もう14回目なのに学べっつーの。これまたインド的に結局、どこでも預かってもらえたのでした。荷物タグを大切に短パンのポケットにしまいました。走っている最中、なくしそうでコワイ。
 さてトイレに行っておこう。暗やみの中で個室に入ったら、ドサッ、と音がしました。ホテルで作ったポカリスエット入りのペットボトルを壁のすき間に落としてしまいました。手を突っ込みましたが届きません。まあいっか、そんなに暑くないし。
 午前5時40分スタートでしたが号砲もなく、ランナーの群れに入って歩いていたら、いつの間にかスタートのゲートまで来てしまい、走り出しました。やったー。スタートしちゃえばこっちのものです。あとは楽しめるだけ楽しもう。すぐにユネスコ世界遺産・CST駅が左側に見えました。ヴェネツィアゴシック様式の建築が照らされ、暗やみに浮かび上がります。何とも幻想的で威風堂々、大英帝国だったイギリスを感じます。息をのみました。しょっぱなから涙が出そうになりました。
 ランナーはインド全土から集まってきています。フルマラソンの大会自体が少なく、そのなかでもムンバイが一番、盛大だからなんだなあ。ハイデラバード、プネ、グルガオン、コルカタ…インド人はクラブ名だけでなく、自分の名前まで臆面もなく(失礼)書かれているTシャツ姿が多いのです。仮装ランナーはいませんが、「Hug me」と胸に書いてランナーを待ち受けている男性はいました(3人ぐらいいたらしい)。えーと、それは、ちょっと…。
 まだ深い藍色が映える海沿いを走ります。それだけで感動です。いいなあ、こんなところがデリーにもあればなあ。いくらでも走れるのに。
 14キロぐらいで海上高速道路シーリンクに入るころ、夜が明けました。うわー、しまなみ海道みたい。右手にムンバイのビル群が広がります。坂道も苦になりません。ハーフを過ぎたころ、背中から声がしました。「チカコー」。え?だれ?振りかえります。笑顔で手を振る長身の男性がいました。あ、ラウルさんだ。何度か参加しているランイベント団体「Running and living」リーダーです。感動しました。名前をちゃんと覚えていてくれたなんて。私はといえばすでに声を出す余裕がなく、手を出し振り返しただけでしたが、うれしくてパワーが出ました。よーし頑張ろう。