多田千香子 | Pen&Co.(ペンアンド)株式会社・代表取締役CEOのブログ

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いざ!デリーハーフマラソン(レース中編)

 デリーのネルー・スタジアムを出て公道を走り出した…ものの、思うように走れません。だって1キロ地点にも達していないのに歩いている人が多過ぎます。歩く人は端っこに寄ってランナーに道を譲る、というのは万国共通ルールだと思っていたのですが、みんな堂々と道の真ん中で悠々、です。さすが牛が道を横切るお国柄というか、12億総マイペーサーというか…。
 2キロ地点ぐらいでしょうか、ほぼ往復コースのため、招待選手たちがカモシカのように右側道路に現れました。アフリカ勢ですが、なんとまぁ、歩幅の広いこと。そのうち女子のエリート選手も10人ほどでしょうか、集団で現れました。長い髪を後ろで束ね、飛ぶように。女性が恵まれているとは言えぬこの国にあって活躍すること、いろんなものと戦っているに違いありません。勝手にいろいろ想像して胸が熱くなりました。命宿る力強きものは、何でも自分の力になり、また別のだれかに影響を与える…持続可能な究極のクリーン・パワーじゃないだろうか。ランってすごい。そんなことを思いながら一人、走っていました。見事なランナーズ・ハイです。よーし私も戦おう。
 走って40分過ぎ、7キロぐらいでインド門が見えて来ました。大気汚染の影響かかすんでいますが、でもすぐそばを走れるなんて、うわー。見上げます。パリの凱旋門ミニ版やなー。「すごいだろ?初めて見たの?」と、後ろのランナーが誇らしげに言いました。いや、初めてじゃないけれど、ね。
 給水はほぼ2キロごとにありました。協賛企業のキングフィッシャーのミネラルウオーターやジュース、オレンジがありました。残念ながら?サモサもカレーもありません…って当たり前ですが。道路わきにボトルを捨てると、ボランティアスタッフなんだか路上生活の子どもかよく分からない人たちが集めているのも、またインドらしい。
 きつかったのは17キロを過ぎたころでした。レース前の目標は「笑顔でゴール」「2時間10分を切る」というものでしたが、もう少しペースを上げれば、ひょっとして2時間を切るかも…という欲が芽生えたのが10キロを過ぎたころです。でも17キロぐらいで現実に戻り、どう考えても無理だなと目標が消えてペースダウン。おまけに木陰が続いて暗く、対向車線に走友会の友がいる可能性も消え、負のスパイラルに突入したのでした。お約束ですが胸突き八丁とはよく言ったものだな、ひー、はーっ。
 20キロを過ぎたら半泣きでした。最後は全力疾走と決めてギアをトップに入れたのが速すぎました。スタジアム、まだ見えないのー。「しんどければ高橋尚子を演じてみる」。言い聞かせつつ気分はQちゃんです。もうかまうもんかー。一人でオリンピック気分です。「ガンバレー」。後ろのインド人ランナーが日本語で叫んでくれました。走友会のロゴに気付いてくれたんだな。さ、さんきゅーっ。
 叫びつつ交差点を渡ったところに、日の丸を振る女性2人組の姿が飛び込んできました。「がんばってー!」。じわー。涙が出そうになりました。うわあ、もう頑張るー。ようやく心のギアもトップに入りました。あとから気づいたのですが、走友会Sさんの家族、KさんEさん母娘でした。
 その後、スタートから応援くださったMさんAさんコンビの声が。さらにすでにゴールしたMさんの顔が見えました。「タダサーン」「あ、大変そうですねェ」。そんな声が聞こえてちょっと、泣き笑いに。
 スタジアム入り口で待っていたのが走友会のTシャツを着た相方ユウさん、2歳5カ月の丁稚ケイのコンビでした。「ままー」「ケイ!」。30年ぶりの対面ちゃうっつーの。でも半泣きです。ケイを肩車してゴールする、というのが夢でしたがそれどころではなく、鬼の形相です。笑顔でゴールはどこへ行った。まぁ、戦うハハを目に焼き付けてくれたと信じよう。
 ゴールにたどりつきました。腕時計を止めます。2時間3分27秒でした。1日後にウェブで発表された公式記録をみると2時間3分26秒でした。正確なものだなー。「2時間10分以内でゴール」をめざし、1キロ6分10秒でペース設定していたのが、5分30秒〜6分ジャストぐらいで走っていたことになります。ふだんの練習じゃあ決して出せないペースです。
 走り終わったら完走記念メダルにリンゴ、ビスケット、丸いパン、ミネラルウオーターを受け取りました。渋谷・ハチ公前交差点のような雑踏でインド走友会のメンバーを探します。いた、いた。ハイタッチや抱きあって完走を喜び合います。
 「インド門を過ぎたらリキシャーに乗ります」と、リタイア宣言をしていたR子さんも無事にゴールしていました。よかったー。18人全員が完走の記念撮影です。なんとも晴れ晴れとした気分です。初めて10キロを走れた東京マラソンのときのように、また心に何かが芽生えたことを感じます。何て爽快なんだろう。もっとやれたかもしれない…という思いも、もちろん残しつつ次への糧にしていこう。なけなしだけれど、力を出し尽くそう、ランも人生も。
 そろいのシャツとメンバーのおかげで、本当に忘れられないランになりました。大人の部活、最高です。
 写真はゴール寸前、ヤマトナデシコMさん撮影です。鬼の形相、それでも手を振りました!