多田千香子 | Pen&Co.(ペンアンド)株式会社・代表取締役CEOのブログ

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待つこと23時間、ようやく飛べる、はずが…

 6日デリー発のJAL740便が濃霧のため飛ばず、JALが用意してくれたトライデントに一泊しました。さすが高級ホテル、バスタブにお湯が貯まるまで出るし、家じゃあこうはいかない。また空港に入り、チェックインし、保安検査を受けて…を、繰り返さないと行けません。簡単なことのようですが、デリーでは何度もセキュリティチェックがあり、そのたびに行列です。ヒト科フシギ属の2歳児・ケイも連れ、荷物もあり…ふう、気合を入れよう。
 午後3時半、ホテル発のバスに乗って空港へ。長い行列の先に私が前夜、置き去りにしたスーツケース3つがあってホッとしました。チェックインしてからまた出国カード(結構細かい)を2人分、書いて出国。保安検査を受けて免税エリアにたどりつきました。何か食べたいな。ハーゲンダッツのアイスを買いました。ダブルカップで490Rs(850円)は高すぎたうえ、ほとんどケイに食べられてしまい敗北感です。まあいっか。もう長い列ともおさらばだし。
 予定を過ぎて19:40ごろ、搭乗開始です。昨日と同じ座席に座ります。飛ぶかなあ、きょうは。昨日はここから4時間だったから。窓の外にはちゃんと翼が見えるし、他の便も飛んでいるようだし、大丈夫だろう。
 そう思っていたらケイが言いました。「うんちしたー」。あちゃ、離陸前におむつ、替えよう。ガサゴソしていたら機内アナウンスがありました。「23Kのお席の…さま、お近くの乗務員へお声がけください」。あれ、私、呼ばれている?ケイを連れて立ち上がりました。近くのCAに声をかけましたが「ちょっと待って」とのことです。何だろう、ひょっとしてアップグレードしてくれるとか…と思った私、なんておめでたいのでしょう。しばらくしてインド人の地上スタッフがやってきて、ついてくるように促されたのでした。「スーツケースが再検査になった」。えー、なんで。
 わけがわからないまま搭乗口に舞い戻りました。軍服姿のヒゲ面が立ちはだかりました。「ここで待て」。腰に水平にぶらさがった銃が怖い。言いなりになるしかありません。スーツケース3つのうち1個にはお茶やカレーパウダーなど土産物が詰まっているけれど、残りの2つは空っぽ同然です。「問題ない」とスタッフに言いましたが、彼女も首をかしげるばかり。「スプレー缶やハサミを入れた?」と訊かれましたが、それも覚えがありません。まさか空港に一晩、置き去りにしちゃった間にだれかが薬物でも入れたとか?まさか…とは思いますがここはインド、ですから。
 ヒト科フシギ属と待つこと1時間、ようやく「ついて来て」と、免税エリアの方向に促されました。どこへ行くんだろう。ケイと手をつないで走り出しました。「ケイ、がんばれる?」「ハイッ」。よっしゃー、と広い空港を逆走します。たどり着いたのは乗り継ぎ客のセキュリティゲートで、また待たされました。JAL職員と兵隊がヒンディー語で激しくやりとりしています。どうやら「搭乗券の半券ではここを通さない」と言っているようです。機内に入るときにちぎられたんだから、ないに決まっています。でも許されず、JAL職員がカウンターまで走って発行し直してくることになったよう。私とケイだけセキュリティを通されず、取り残されました。2人ぼっち、さすがに青ざめました。どうなるんだろう、いったい。乗れないのはいいにしても、薬物とか爆弾とか出てきてテロ犯とかと間違えられ、逮捕されたらどうしよう。妄想が止まらずネガティブ赤毛のアンと化してしまいました。まさかこんなところまで連れ出されるとは思わず、おむつを替えなかったこと、携帯は機内に置いてきたことを悔やみました。それでもボクはやってない、ってなんでこんなところで冤罪ドラマを思い出さねばならんのー。
 見ると時計は21:30を回っていました。待つこと30分以上、JALの職員が搭乗券を持って戻って来ました。セキュリティを通り、また免税エリアを通り、暗証番号が必要な立ち入り禁止の扉の向こうへ。エレベーターに乗ってまた歩き…ってもう、どこに連れて行かれるのか。
 入った小部屋は荷物がたくさん、おいてありました。嫌疑のかかった荷物の再検査室なのでしょう。係員3人の前の台に、私の赤いスーツケースが待ち構えていました。開けろ、とアゴで促され、広げました。スカスカです。見覚えのないモノはなさそうです。真っ先に出てきたのはチョコレートです。「これは何だ」。指さされたのは小さな体重計の箱でした。もうインドで使っていないので、岡山の実家に置いておこうと入れたものです。えー、これっ。大声で叫びました。体重計のどこが問題なの。思わず笑ってしまいました。漫画かいな。
 ヒゲ面がひっくり返して電池ケースを開けています。機内持ち込み制限のあるリチウム電池でもなく、ただの単三乾電池です。爆弾装置とでも思ったのでしょうか。あまりに見当はずれ、そのために飛行機を飛ばさないなんて。わなわな全身がふるえるってあるんだな。アゴマリアナ海溝まで落下するかと思いました。
 ようやく無罪放免となりました。早く戻ろう、戻らなくちゃ。ケイを抱えてダッシュします。「もう遅れているし、そんなにあわてなくても大丈夫」と空港スタッフは言いましたが、いや遅れているからこそ、でしょう。
 途中でゴルフカートみたいな移動サービス車を見つけました。スタッフに促されて乗りました。8番ゲートへ向かうためUターン…したら大荷物を抱えたインド乗客たちが勝手に乗り込みます。「私も乗せて」「8番なら方向は一緒」「こっちは急いでいるの」。言い争っているうちにどんどん、人が寄ってきて無理やり乗ろうとしているではありませんか。たかだか4人乗りです。ありえんー、乗れんっつーの。街角のオートリキシャー状態、100人乗っても大丈夫ー、じゃないっつーの。ケンカというか、議論というか、推定体重100キロ軍団と言い争いが始まっています。んもう、降りて走ったほうが速いような。でも必死で叫びました。ここは戦おう。コラー、あっち行ってよ、もう。
 鬼の形相で機内に戻りました。「荷物の再検査のため、離陸が遅れましたことをお詫びいたします…」。何ともいたたまれない気分です。でも私が何をした。離陸したのは22:00過ぎ、予定の3時間遅れでした。ああ、もう、インドってヤツは。
 ケイを抱っこしたままウトウトしていたら泣き声で目が覚めました。暗やみに浮かぶケイの顔が真っ赤に染まっていました。ぎゃー、ホラーだー。悪夢の続きかと思いましたが鼻血ブーと分かってホッ。私の服で顔中ふきまわったようで、私の服も血みどろでした。プロレス親子かいな。よく頑張ったなあ、ケイ。さあ、もうすぐ日本だよ。日本に帰ろう。ぎゅっと抱きしめ、また血みどろになる私たちです。
 写真はトライデントの午後、この日3つ目のリンゴをかじるケイです。ああ、このころは平和でした…。